「仕掛人・藤枝梅安」は、「鬼平犯科帳」「剣客商売」とともに時代小説の大家・池波正太郎の三大シリーズとして、長く愛されている作品です。
その最大の魅力は、主人公の梅安が、人の命を救う「鍼医」と人を殺める「仕掛人」、ふたつの顔を持つ人物であるということです。人は悪いことをしながら、一方では善いこともする矛盾した存在である。これは池波先生が作品の中に描き続けたテーマです。
わたしたちは2011年より、池波先生原作の「鬼平外伝」シリーズなど20作品を超えるオリジナル時代劇の製作を続けてきました。いくつかの作品がギャラクシー賞奨励賞や海外のテレビ賞の受賞など高評価をいただく中で、これからは時代劇を「守る」姿勢から、世界に良質な作品を届ける「攻め」の気持ちで進んでいこう。そう考えたときに、“鍼という独自の技を使うアサシン”謂わばダークヒーローとして海外からも注目される「仕掛人・藤枝梅安」の新作を作りたいと強く思い、映像化プロジェクトを立ち上げました。
幸い、わたしたちの企画、志に多くの賛同をいただき、これ以上ない素晴らしいキャスト、スタッフの参加が実現しました。脚本は大河ドラマ「風林火山」、大河ファンタジー「精霊の守り人」の大森寿美男さん、監督は「忠臣蔵1/47」「雨の首ふり坂」の河毛俊作さん。主役の梅安には、大柄で原作のイメージに近く、人間の陰と陽を絶妙なバランスで表現できる豊川悦司さんしかいないとオファーしたところ、こどものころから作品の大ファンということで快諾いただきました。豊川さんは、医師としての姿も丁寧に描くために本格的な鍼の指導を受け、殺しの場面とともに新たな梅安の顔を見せています。片岡愛之助さん演じる相棒の彦次郎とのバディ感、菅野美穂さん扮するおもんと梅安の心模様とともに、一作目の天海祐希さん、柳葉敏郎さん、二作目の佐藤浩市さん、椎名桔平さん、豪華ゲストが演じるくせ者たちと梅安が、どう関わるのか。本当の悪は誰なのか。命のやりとりをする緊迫感、闇にうごめく人間たち、江戸ノアールの世界が見事に表現されました。
2023年は、池波正太郎先生生誕100年という記念の年です。わたしたちは「仕掛人・藤枝梅安」シリーズを、池波先生の世界観や時代劇の伝統をリスペクトしながら「時代劇、新時代。」の代表作、メイド・イン・ジャパンのエンターテイメント作品として、自信をもって国内外、幅広い世代にアピールしていきます。
日本映画放送
宮川朋之 エグゼクティブ・プロデューサー
品川台町の藤枝梅安(豊川悦司)にはふたつの顔があった。腕の良い鍼医者の 表の顔と、“蔓(つる)”と呼ばれる裏稼業の元締から金をもらって、生かしておいては為にならない奴らを 闇に葬る冷酷な“仕掛人”の裏の顔だ。
ある晩、仕掛の後、仕掛人でもある楊枝作りの職人・彦次郎(片岡愛之助)の家に泊った梅安は、帰り道、浪人・石川友五郎(早乙女太一)が刺客を斬り捨てる場面を目撃する。刺客が死んだことを確かめ、医者が出る幕ではないと悠然と立ち去る梅安を、浪人はにらみつけていた。その後、梅安は蔓である羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)から料理屋・万七の内儀おみの(天海祐希)の仕掛を依頼される。三年前、万七の前の女房おしずを仕掛けたのは他ならぬ梅安だった。
梅安は、万七の女中おもん(菅野美穂)と深い仲になり、店の内情を聞き出す。おもんの話では、おしずの死後、おみのが内儀になってから、古参の奉公人たちが次々と去り、店の評判は落ちているのに儲けだけはあるという。おみのは店に見栄えのいい娘を女中として雇い入れ、客をとらせているのだった。
おしず殺しの依頼人はおみのなのか...殺しの起り(依頼人)の身元を探るのは、仕掛人の掟に反すると知りながら、梅安は三年前のいきさつを知りたいと思い始めた。そして、初めておみのの顔を見た梅安は息を吞む。それは梅安に暗い身の上を思い出させる対面だった...。
京では、無頼の浪人集団が町家で暴れまわっていた。金や酒、女を強奪し、逆らう者は容赦なく斬り捨てる。その中心にいるのが井坂惣市(椎名桔平)という男だった。
そのころ、藤枝梅安(豊川悦司)は幼いころ自分を拾って、鍼医にしてくれた恩人・津山悦堂(小林薫)の墓参りをするため、相棒の彦次郎(片岡愛之助)とともに京に向かっていた。その道中で、彦次郎はある男の顔を見て「あの野郎、生かしてはおけねえ」とつぶやく。男は、彦次郎の妻と子を死に追いやった憎い仇だった。初めて明かされる彦次郎の生い立ち。 だが、男はきちんとした身なりの武士であり、非道を働くような人柄には見えないことから、梅安は本当にこの男が仇なのか違和感を覚える。同じ旅籠に泊り、身元を探ると、男は 松平甲斐守の家臣・峯山又十郎(椎名桔平・二役)とわかる。悦堂の墓前で、悦堂を亡き父の恩人だと感謝する又十郎と会話した梅安は、この男が仇ではないと確信する。
だが、峯山には不審な動きもあった。その夜、上方の顔役で殺しの依頼を仲介する元締“蔓”でもある白子屋菊右衛門(石橋蓮司)と久しぶりに再会した梅安は、いきなり井坂の仕掛を頼まれる。一方、店ですれ違いざま、梅安の顔を見て、目を見張る浪人がいた。男の名は井上半十郎(佐藤浩市)。井上と梅安も切り離せない憎悪の鎖でつながれていたのだ。新春の祭りで華やぐ京の町で、彦次郎と仇、梅安と井上、暗い因縁の決着をつけるべき時が来た。